「マドモアゼル洋装店」その洋装店は東京の
中野にあった。トモコさんが洋裁学校を卒業
して勤めていたお店だ。トモコさんは結婚す
るまでその洋装店に他の二人と一緒に住み込
みで働いていた。冬になるとトモコさんの両
手はしもやけで ぱんぱんに腫れぶよぶよに
なることもあった。
先生とご両親と息子さんがいらして、皆が家族
の様に暮してしていたように見えた。息子さん
の名前は、たしかこーちゃん。トモコさんはみ
んなからみーちゃんみ~ちゃんと呼ばれていた。
こーちゃんの文化祭には私も誘われて行った。
こーちゃんが学習院の中等部の頃だったと思う。
あなたが高校を卒業して6本木の文具店に勤めた
頃、トモコさんのお休みは月2回ぐらいだった(?)
週一回お休みのあったあなたは、行くところに困
ると、かまわず良くマドモアゼル洋装店にお邪魔
した。トモコさんの気持ちなんかどうでも良かっ
た。先生もおじさんおばさんも、お店の人たちも
「ふみこはんよう~きたね」とか「いらっしゃい」
と いつも笑顔でむかえてくださったのを、今思う
と「いいことにして。」
行くときは、たいがいお花を買って行った。
ゴトウ花店で、麦の穂と白いチューリップだった
りアネモネだったり。「今頃行くと、お昼にかか
るから もう少ししてから」などという気持ちは
いつ頃芽生えたのだろうか?
「ふみこはんは特別やで」と言って、おばさんが
一人分だけ特別用意してくれた あなただけの昼
食を、 先生も、おじさんも、お店の皆も、「良
かったね」と言って見ていたね。オムライスに添
えてくれたトマトケチャップ。なぜか、あの頃の
ことは、今もときどき思い出す。
ってもらったのも、トモコさんではなくマドモア
ゼル洋装店の、先生のお父さん、おじさんだった。
まだ、あなたの中では 「マドモアゼル洋装店で
洋服を注文する人は特別な人」と思ったいたころ
のこと。その後のことは、わたしは知らない。